バルチック海運指数と株価の相関と海運株の今後の見通し

バルチック海運指数

世界経済の先行指標とされるバルチック海運指数(BDI)。

機関投資家や大口トレーダーなども注目する経済指標であり、海運株の今後を見通すうえで見逃せない指数です。

バルチック海運指数が上がるとどうなるのか、株価へどう影響するのかを解説しながら、バルチック海運指数と海運株の今後を見通していきたいと思います。

バルチック海運指数(BDI)とは?

(最終更新日:2022/3/30、元記事:2020/7/16)
バルチック海運指数とは、外航不定期船(ばら積み貨物船)と呼ばれる外国航路を行き来して貨物を運搬する船の運賃や用船料から算出する海上輸送コストを表す指数です。

イギリスのロンドンにあるバルチック海運取引所が、世界各国の主要水域を通る外航不定期船(ばら積み貨物船)の運賃を収集して指数を算出していることから、バルチック海運指数と呼ばれています。

世界経済の先行指標と言われ、世界中のエコノミストやアナリスト、機関投資家が注目している指標です。

副管理人アイコン
外航不定期船(ばら積み貨物船)の運賃が、どうして世界経済の見通し予測に役立つのでしょうか?

世界経済の先行指標とされる理由

バルチック海運指数が世界経済を見通す先行指標とされる理由は、世界の貿易額の増減、つまり国際物流の動向が分かるからです。

国際貿易は航空輸送よりも海上輸送の物流量が圧倒的に多く、経済産業省の資料によると重量ベースで90%強・金額ベースで70%前後を海上輸送が占めるといいます。

参考:経済産業省「物流の寸断とサプライチェーン」

世界の貿易が活発かどうかは、海上輸送の増減を見ればだいたいの把握が可能。

国際物流の大部分の荷物は、鉄鉱石・石炭・穀物などのドライカーゴと言われる乾貨物です。

鉄鉱石・石炭・穀物などの乾貨物は外航不定期船(ばら積み貨物船)によって運搬されるため、運搬する量によってばら積み貨物船の運賃も変動します。

ばら積み貨物船の運賃

管理人アイコン
鉄鉱石・石炭・穀物などのコモディティの需給の変化が、ばら積み貨物船の運賃に随時反映されるため、世界経済の見通し予測に役立つのです。

現実経済ではどんなことが起きているのか。

鉄鉱石の需要に大きくかかわる自動車業界を例に、2020年~2022年のバルチック海運指数の変動を見てみましょう。

バルチック海運指数チャート(2020年~2022年)出典:TradingView提供のチャート

2020年2月~5月頃は、新型コロナウイルス感染症の感染爆発により世界各地でロックダウンや行動制限が実施されていました。工場の稼働停止などもあり、各自動車メーカーの自動車生産台数は減少。バルチック海運指数は低迷しています。

バルチック海運指数の低下

6月頃に中国や北米で自動車の生産が再開されると、鉄鉱石の需要も回復。
バルチック海運指数は上昇します。

ところが2021年10月に世界的な半導体不足により生産台数の減産を強いられると、バルチック海運指数は再度下落に転じています。

自動車産業は市場規模が巨大で、部品、素材、設備といった自動車生産にかかわる企業や、車を流通、販売、点検、整備、ガソリン販売など、様々な業種やメーカーが携わっています。

自動車産業出典:絵でわかる自動車産業

自動車関連の産業に従事する労働者は日本だけでも542万人。日本の全就業人口の8.1%にもなります。

参考:一般社団法人 日本自動車工業会「自動車関連産業と就業人口」

自動車のような巨大産業の停滞や衰退は、関連する企業の業績悪化、しいては雇用の悪化や給与の停滞へとつながり、経済の低迷を招きます。

鉄鉱石・石炭・穀物などのコモディティ需給の変化の影響は、時間を経て実際の経済に表れるのです。

管理人アイコン
バルチック海運指数の変動から数ヶ月経つと、企業の業績や個人消費に変化が起こる。
だからバルチック海運指数は世界経済の先行指標とか、世界経済のバロメーターなんて呼ばれるんです。

バルチック海運指数と株価の相関

バルチック海運指数は、貿易を通じて世界経済の動向がつかめるに留まらず、株価との相関性が⾼い指標です。

有名エコノミストのエミン・ユルマズ氏も、バルチック海運指数から海運関連企業の業績を予測しています。

エミンユルマズ氏のバルチック海運指数に関するツイート出典:@yurumazu

海運株と相関が強く株価との連動性が高いことがよく知られているバルチック海運指数ですが、日本の相場動向を測る日経平均株価とは逆相関になる傾向があります。

  1. バルチック海運指数と相関関係が高い企業の株価が読みやすい
  2. バルチック海運指数が日経平均株価に影響を与えやすい

これらの理由から、多くの投資家や相場関係者がバルチック海運指数に注目しているのです。

バルチック海運指数と海運株は正の相関

バルチック海運指数は、ばら積み貨物船の運賃を反映させた指標なので海運業との相関性が高く、海運株の先行指標になっています。

海上輸送が活発かは海運業の業績にダイレクトに影響するので、株価も連動して高くなったり低くなったりします。

 バルチック海運指数と海運株は正の相関関係

・バルチック海運指数が上がると海運株も上がる
・バルチック海運指数が下がると海運株も下がる

バルチック海運指数(BDI)と日本郵船(9101)・商船三井(9104)・NSユナイテッド海運(9110)といった日本を代表する海運会社の株価を比較したチャートを比較してみましょう。

バルチック海運指数と海運株の比較チャート出典:TradingView提供のチャート

株価の上下の幅は銘柄で異なりますが、どの銘柄もバルチック海運指数と似たようなチャートアクションになっているのがわかります。

副管理人アイコン
これほど連動性が高いと、バルチック海運指数が上がるのか下がるのか事前に分かる方法があれば、海運株の予測がもっと簡単になりそう!

中国の影響が大きいバルチック海運指数と海運株

バルチック海運指数は、中国の経済動向と経済政策によって変動するほど、中国の影響を大きく受けています。

バルチック海運指数はコモディティ(鉄鉱石・石炭・穀物など)の需給の変化が反映されるというのは、この記事の「世界経済の先行指標とされる理由」で解説しましたが、そのコモディティの需要が世界で一番大きいのが中国だからです。

鉄鉱石は需要の70%が中国で生まれており、石炭の最大輸入国も中国です。

中国とバルチック海運指数の関係

中国の鉄鉱石や石炭といったコモディティ需要の動向次第でバルチック海運指数が変動し、海運株にもその影響が及ぶのです。

大きな変動があった事例だと、2021年10月からの4か月間でバルチック海運指数が約75%も下落したということがありました。

バルチック海運指数の急落で海運株も下落出典:TradingView提供のチャート

これは、中国政府が脱炭素を目的に二酸化炭素(CO2)の排出量が多い鉄鋼業の減産を推し進めたこと、北京オリンピックに向けたゼロコロナ政策により人員の移動が制限され、物流機能が低下したことが要因です。

参考:中国の鉄鋼生産鈍化で用船料急落-バルチック指数、4カ月で75%下落

中国経済の停滞がそのままバルチック海運指数の急落、海運株の下落へとつながっていることがよくわかります。

バルチック海運指数と日経平均株価は逆相関

世界経済の先行指標と言われるくらいなので、バルチック海運指数と日経平均株価も相関性があります。

ただし海運株との正の相関関係と違い、負の相関関係(逆相関)となります。

 バルチック海運指数と日経平均株価は逆相関

・バルチック海運指数が上がると日経平均株価は下がる
・バルチック海運指数が下がると日経平均株価は上がる

チャートでも逆の相関傾向が表れていることがわかります。

バルチック海運指数と日経平均株価の比較チャート出典:TradingView提供のチャート

バルチック海運指数と日経平均が逆相関にある理由は大きく2つあります。

日経平均採用銘柄に海運株が3銘柄のみ

日経平均とは、東証1部に上場する企業の中から選ばれた日本を代表する225社の平均株価です。

業種等のバランスが考慮され選ばれているのですが、日経平均に組み込まれている海運株は3銘柄しかありません。

225銘柄ある中で海運3銘柄が上昇したとしても、影響はほとんどないので日経平均全体が上がるということもありません。

バルチック海運指数と日経平均は正の相関にはなりにくい構造があるのです。

日本の輸入依存度が高い

日本は生活に欠かせない多くの資源を輸入に頼っています。

石油・天然ガス・石炭・鉄鉱石・パラジウム・ニッケル・ボーキサイトなどのエネルギー資源や、小麦・とうもろこし・大豆といった米以外の主要穀物のほとんどを輸入に依存しています。

バルチック海運指数が上がると輸入コストが増加するので、企業の利益が減って景気悪化につながりやすい。

逆にバルチック海運指数が下がると輸入コストが減少して、企業の利益が増えて景気改善につながりやすい。

バルチック海運指数と日経平均が逆の相関になりやすい理由

日本は輸入依存度が高く日経平均採用銘柄も輸入に頼る企業が多く含まれるため、バルチック海運指数と日経平均は逆の相関になりやすいのです。

バルチック海運指数と海運株の今後の見通し

副管理人アイコン
2021年の株式市場で最も注目を集めた海運業ですが、今から海運株を買っても遅くないでしょうか?
管理人アイコン
海運株の上昇は、2022年も期待できると予想しています。
バルチック海運指数は今後も高値で推移する見込みですし、海運各社の業績見通しも良好です。

バルチック海運指数の見通し

バルチック海運指数は夏ごろまで上昇して、その後も高値で推移する見通しです。

テクニカル分析で上昇シグナルが点灯していますし、海上輸送運賃の高騰が続くと予想されているのが主な理由です。

バルチック海運指数のテクニカル分析

バルチック海運指数の週足チャートに、トレンドを見極めるのに使えるテクニカル指標のボリンジャーバンド(±2σと±3σ)とMACDを表示させています。

バルチック海運指数をテクニカル分析出典:TradingView提供のチャート

ボリンジャーバンドの±2σ付近で指数が反転、MACDでも0ラインより下でゴールデンクロスをしています。

参考:ボリンジャーバンドの使い方MACDの使い方

ボリンジャーバンドとMACDを使ったテクニカル分析では、バルチック海運指数上昇のシグナルが出ています。

バルチック海運指数のファンダメンタル分析

現在の国際海上コンテナ輸送は、需要に対して供給が追い付かないという需給ひっ迫の状況から海上輸送コストが高騰しています。

国土交通省「国際海上コンテナ輸送の需給逼迫について」出典:国土交通省「国際海上コンテナ輸送の需給逼迫について」

国土交通省の資料では2022年の夏ごろまで、日本貿易振興機構(ジェトロ)によると秋ごろまでコンテナの混雑は続くかもしれないと予測しています。

コンテナの混雑が続くということは海上輸送運賃も高いままなので、バルチック海運指数は夏ごろまで上昇、そしてその後もしばらく高値で推移していく見通しです。

海運株の見通し

海運会社が業績好調な状態が今後しばらく続くと予想する理由は3つあります。

四季報最新号にある海運大手3社の見通しと海運大手3社による合同企業ONEジャパンの好調ぶり、そして円安による為替差益の増加です。

四季報最新号の見通し

四季報最新号によると、海運大手3社のコメント欄には23年3月期も好調になりそうな旨が記載されています。

  • 商船三井
  • 市況高騰続きコンテナ船の持分益が膨張。コンテナ船高水準維持。

  • 日本郵船
  • 23年3月期も、バラ積み船や自動車船は堅調。コンテナ船も高水準続く。

  • 川崎汽船
  • バラ積み船や自動車船が復調。23年3月期も、バラ積み船堅調。持分コンテナ船高水準。
    ※2022年2集春号の会社四季報から抜粋

海運大手3社による合同企業ONEが絶好調

日本郵船・商船三井・川崎汽船の海運大手3社がコンテナ部門を統合し設立した「ONE(オーシャン・ネットワーク・エクスプレス)」の業績が非常に好調です。

2022年3月期第三四半期決算を見ると、同社の業績の絶好調ぶりがわかります。

ONEジャパンの2022年3月期第三四半期決算出典:ONEジャパン「2021年度第3四半期決算説明資料」

2021年3月期の実績に対する2022年3月期の通期予想は下記の通り。

・売上高が2.02倍(前期14,397⇒今期29,045)
・税引き後損益が4.42倍(前期3,484⇒今期15,398)
※単位:百万USドル

2021年10月に予想した業績をさらに上方修正したものとなっています。

同資料では海上輸送の混雑や混乱に対して柔軟に対応している旨も記載がありました。

サプライチェーン混乱の影響と対応出典:ONEジャパン「3.サプライチェーン混乱の影響と対応」

2023年3月期の業績予想は公開されていませんが、米ロサンゼルス港の状況が改善されていないなか、しっかりとした対応を見せるONEの業績は好調を維持すると考えられます。

このONEの業績が良いと、日本郵船・商船三井・川崎汽船の3社が受け取れる配当の増額や業績の底上げも期待出来ます。

また海運輸送の需要はこの海運大手3社だけで賄いきれるものではないので、他の海運会社の業績も好調が続いていくと考えられます。

海運株は全体的に好調が続き、株価も期待できるというのが、今の見通しです。

バルチック海運指数チャート

バルチック海運指数チャートは、BloombergやMoney Boxといったサイトで誰でも見れます。

バルチック海運指数は英語で「Baltic Dry Index」と表記され、ティッカーシンボルはBDI。

  • Bloomberg
  • 過去5年のバルチック海運指数チャートが見れて、株式指数や指定銘柄の株価との比較が出来る。

  • Money Box
  • 過去6ヶ月のバルチック海運指数とダウ・ドル・日経平均との比較チャートが見れる。

SBI証券や楽天証券といった個人投資家に人気の証券会社が提供するチャートツールでは、現状だとバルチック海運指数は見れませんでした。

TradingViewがおすすめ

私がバルチック海運指数の分析に利用しているチャートツールは、トレーディングビューです。

TradingView(トレーディングビュー)は、バルチック海運指数を自分でカスタマイズしたテクニカル分析が出来ます。

バルチック海運指数チャート分析におすすめのトレーディングビュー出典:TradingView提供のチャート

ボリンジャーバンドや一目均衡表、MACDなどのテクニカルインジケーターと組み合わせて使えるので詳しい分析も可能です。

他のサイトだと自分でカスタマイズしてテクニカル分析できるバルチック指数がなかなかないので重宝しています。

バルチック海運指数チャートの見方

バルチック海運指数は、1985年1月4日を1000とする基準で算出されていますが、指数の数字自体に特に意味はありません。

基準とされる1000に近いから良いというものでもないし、2000を超えていればいいというわけでもありません。

指数の上昇が続いているなら景気は拡大傾向、下落が続いているなら景気は減退傾向、指数が短期間で大幅に上昇していれば景気回復が急速に進んでいるなど、バルチック海運指数がどんな変動をしているかを見るようにしましょう。

相場動向を掴みやすいというのがバルチック海運指数の特徴なので、世界経済とどう連動しているのかを見ると、今後の経済や株価の予測するのにも役立てられるようになると思います。

ただし戦争や経済危機などの有事の際は注意してください。

長期チャートで見る有事の際のバルチック海運指数の変動出典:TradingView提供のチャート

戦争や経済危機などが起こると、海運ルートや空運ルートへの影響、船の燃料である原油価格の高騰などが起きてバルチック海運指数が急騰することがあります。

有事の時は景気と関係なくバルチック海運指数が急上昇する傾向があると、知っておくといいと思います。

バルチック海運指数のよくある質問(Q&A)

バルチック海運指数の更新時間はいつ?

バルチック海運指数は、バルチック海運取引所のサイトで一日一回発表されています。

更新時間は毎営業日のイギリス時間の13時。

日本時間では、サマータイム期間中の4月~10月は21時、11月~3月は22時に更新されます。

一般には公開されておらず、ユーザー登録している企業が見れるようになっています。

ティッカーシンボルは?

バルチック海運指数は英語でBaltic Dry Indexと表記され、ティッカーシンボルは(BDI)です。

バルチック海運指数はどうやって算出してる?

バルチック海運指数は、ばら積み貨物船の4つの異なるサイズの船の運賃指数を基に、独自の基準で評価替えしたうえで指数を計算しています。

 バルチック海運指数の算出式

((Capesize5TCavg + PanamaxTCavg + SupramaxTCavg + HandysizeTCavg)÷4)×0.110345333
※TCavg = Time charter averageの略
※0.110345333:独自の基準で評価替えするための数値。この数値の理由は情報が公開されていない。
・Capesize5
・Panamax
・Supramax
・Handysize

2件のコメントがあります

    WordPress › エラー