目次
自社株買いのメリットは投資家・企業・社員それぞれにある


自社株買いのメリットについて語る前に、なぜ自社株買いを行う企業が増えてきたのか?
その背景や理由をかんたんにまとめました。
★日本では長らく、上場企業が株主の利益が重視されていなかった。
⇒その結果、利益を配当や賃金などに回さず、内部留保ばかり増加、批判が高まった。
↓↓↓
★東証などにより「コーポレートガバナンス・コード」が策定。
⇒「株主の権利・平等性の確保」「株主との対話」などの基本原則が盛り込まれた。
↓↓↓
★投資家が株主還元の重要性について上場企業との対話を進めてきた。
★モノ言う株主(アクティビスト)の影響が大きくなった。
★自社の株価を割安と見る経営者が増えた。
などのいきさつもあり、自社株買いが増えたと考えられています。



自社株買いとは
自社株買いとは、文字通り企業が自社の株式を買うことです。「自己株買い」「自社株式の取得」という言い方をすることもあります。
上場企業が自社株買いをする場合、基本的には株式市場に流通する株を市場内で買い進めていきます。
時間外取引による自社株買いを行う場合もあります。
★買い取った自社株はどうする?
自社株買いされた株を企業はどうするのでしょうか?
代表的な4つのパターンを紹介します。
【金庫株】
金庫株とは文字通り、買った株を金庫にしまっておくことを意味します。
つまり、買い取った自社株を特になにもせずにしておくことです。
【消却】
自社株買いの消却は、株をなくすことを意味します。
自社株買いした株を消却すると、1株あたりの純資産(BPS)、利益(EPS)、ROEが増加し、株主がもつ株の価値が高まります。
【ストックオプション】
自社株買いした株は、一度金庫株にしておき、社員へのストックオプションに充てることが可能です。
【M&A】
企業を買収する時に、現金で買収するのではなく株式交換による場合があり、それに利用することが考えられます。

自社株買いのメリット【企業編】
企業にとっての自社株買いのメリットは以下のとおり。
★買収防衛
★M&Aへの活用
★ストックオプションによる社員のモチベーションUP
★配当の総額が減る
★株主への利益還元
株主への利益還元を積極的に行う企業であるとの市場評価を得られれば、株が買われやすくなり長期ホルダーも増える。
★買収防衛
自社株買いをすると株価が上昇するのが一般的です。株価の上昇は、その企業を買収するためのコストが増えることを意味し、買収されることへの防衛策になります。
★M&Aへの活用
自社株買いした株をM&Aにつかえば、手元現金を減らさずに済みます。また、M&Aする時、平均購入単価よりも自社の株価が上昇していれば、買収コストを抑えられます。
★ストックオプションによる社員のモチベーションUP
企業の業績は社員のモチベーションも大きな要因です。ストックオプション制度を設けることで、社員のモチベーションを上げて成長の原動力に転嫁するメリットがあります。
★配当の総額が減る
自社株には配当を払う必要がありません。ですので、取得した自己株式の分だけ配当を払わなくても良いメリットが生まれます。

★自社株買いの例「ソフトバンクグループ」(9984)
自社株買いに積極的な上場企業の例として、ソフトバンクグループを紹介します。
ソフトバンクグループは、2020年に4回も自社株買いを発表しました。
参照:ソフトバンクグループHP
コロナ・ショックにより相場全体が暴落した2020年3月から、1年以上にわたり自社株買いを行ってきました。
その取得総額はおどろきの2兆5,000億円。


参照:スマートチャートプラス
自社株買いの効果がとてもわかりやすくチャートに反映されています。
自社株買いが始まると株価は上がり、終わると下がる。
ソフトバンクグループの場合、自社株買いが継続中であれば押し目買いをねらった順張り投資で利益を上げられた可能性が高いことがわかります。
※押し目買いについてはコチラ
↓↓↓
押し目買いとは?「押し目待ちに押し目なし」を見分けるコツ
★【番外】非上場企業の自社株買いのメリット
ここで非上場企業における自社株買いのメリットについても触れておきます。
非上場企業の場合、株価を気にする必要はないので株価対策のために自社株買いを行うわけではありません。
では、非上場企業における自社株買いのメリットはどこにあるのでしょう?
主に2つあります。
★株主関係をシンプルにする
★相続税対策
★株主関係をシンプルにする
株主構成があまりにも複雑になっている状態だと、経営における意思決定に支障をきたす可能性があります。
自社株買いを行うことで、そうした障害を解消するメリットがあります。
★相続税対策
たとえば創業社長の株を息子の二代目社長が相続した場合、利益をきちんと出している企業であれば相続税が思いのほか高くなることがあります。
その相続税の支払いのために、会社に株を買い取ってもらうことが相続人のメリットとして挙げられます。

自社株買いのメリット【投資家編】
自社株買いの投資家・株主のメリットはどこにあるのでしょうか?
自己株買いの投資家メリットをまとめてみました。
★相場暴落時の株価の下支え
★持ち株のBPS、EPSが高くなる
★株価上昇
上場企業が多額の資金を投入して株を買い進めていくため、需給のバランスが改善して株価が上がりやすくなります。
★相場暴落時の株価の下支え
ソフトバンクグループの例をみてもわかるように、相場全体が暴落した場合や決算が悪くて株価が急落した場合などに自社株買いが株価を下支えする効果がメリットとして挙げられます。


★持ち株のBPS、EPSが高くなる
消却の項目でも触れましたが、自社株買いすると自社株買いした株を消却すると、
★1株あたりの純資産(BPS)
★1株あたりの利益(EPS)
が増加し、保有株の価値が高まります。
実際に例題を用いて計算してみましょう。
★株価:1,000円
★発行済み株式数:1,000万株
★自社株買い:100万株
★当期純利益:90億円
★純資産:900億円
(株)クロサキの情報をもとにBPSとEPSを求めます。
※BPS = 純資産 ÷ 発行済み株式数
※EPS = 当期純利益 ÷ 発行済み株式数
【自社株買い前】
BPS = 9,000円
EPS = 900円
【自社株買い後】
BPS = 10,000円
EPS = 1,000円
自社株買い後は、1株あたりの純資産と純利益が増加しています。
また株価の割安度の目安となるPERも低くなります。
※PER(倍) = 株価 ÷ EPS
【自社株買い前】
1,000円 ÷ 900円 = 1.1倍
【自社株買い後】
1,000円 ÷ 1,000円 = 1.0倍


自社株買いのメリット【社員編】
企業によっては、社員への福利厚生としてストックオプション制度を導入している場合があります。
★上場している企業
★上場を目指している企業
どちらの場合でも、ストックオプションは割安に自社株を買える制度となっています。
一般的に業績が良ければ長期的に株価は上がっていきます。
割安に自社株を買って高値で売ることも可能になりますので、社員の業務へのモチベーションは高まることが期待されます。

自社株買いのデメリット・注意点


自社株買いのデメリットは主に2つあります。
★自己資本比率の低下
★資金繰りの悪化
★自己資本比率の低下
自己資本比率とは会社の財務の健全性をみる指標です。
下図は貸借対照表の右の部分のイメージです。
貸借対照表の右側は他人資本(負債)と自己資本(純資産)の合計になっています。
図で表しているのは、以下のとおりです。
◎他人資本4億円
◎自己資本6億円
◎自己資本から2億円の自社株を消却
自己資本比率は下記の計算式で導き出します。
自己資本比率 = 自己資本 ÷(自己資本+他人資本)× 100%
自社株の消却前は、
6億円÷10憶円×100%=60%
自社株の消却後は、
4億円÷8憶円×100%=50%
となります。
自己資本比率50%は健全な水準です。
しかし、業種にもよりますが40%を下回るようだと財務に懸念が出てきます。
自己資本比率が70%以上あるような優良財務企業が自社株買いを行う分には、問題ありません。
しかし、財務状態が悪い企業が行う自社株買いには注意が必要です。
★資金繰りの悪化
自社株買いには多額の現金資金が必要になります。
キャッシュリッチな企業が行う分にはなにも問題はありません。
しかし、現金があまりない企業が無理に自社株買いを実施してしまうと、資金繰りが悪化してしまいます。
それで倒産したのでは本末転倒ですね。
資金繰りの悪化は自社株買いのデメリットなので、現金に余裕のある会社かどうか、チェックした方が良いでしょう。

自社株買いを予想した投資は可能か?
自社株買いのメリットとデメリットについて詳しくお話してきました。
自社株買いが発表された企業の株価は、高い確率で短期的に上昇します。
しかし、投資のタイミングとして一番利益を得られるのは、発表前に株を買っておくことです。
はたして、自社株買いしそうな会社を予想した投資は可能でしょうか?
クロサキの考えとしては、不可能ではない。
ただし、投資に絶対はないです。
なぜ不可能ではないといえるのか、その理由をお伝えしましょう。
かんたんに言うと、自社株買いを行う企業には共通点があるからです。
★経営者が自社の株価は安いと公言している
★キャッシュリッチで株主還元策を重要視している
★決算内容が悪い
ソフトバンクグループの場合だと、孫正義会長はたびたび公の場で自社の株価が安すぎると公言していました。
なので、経営者の発言やIR資料で株主還元策を重要視している会社に注目することで、ある程度の自社株買いを行う企業の予想はできます。
過去に自社株買いを積極的に行っているかを見ることも大切です。

※投資は自己責任でお願いします。
自社株買いにメリットが色々あって勉強になります。投資家にとっては消却が1番良さそうですね!
自社株買いと消却のコンボはありがたい
>金庫株の番人さん
コメントをありがとうございます。
自社株買いをしただけでは、BPSは上がりませんね。金庫株にしておくのはもったいないので、消却するかM&Aの資金に充てるかなど、積極的な施策をする会社には好感が持てます。
自社株買いにこんなメリットがあるとは知らなかった。勉強になりました。
>ナナシの権兵衛さん
コメントありがとうございます。そうですね、普通は自社株買いというと、投資家にとってのメリットに目が行きがちですが、会社側にも社員側にもそれぞれメリットがあります。上場企業と未上場企業とでもメリットが異なる点は興味深いですね。