株式投資に効く読書~山崎豊子はいかかでしょう~

小説家 山崎豊子

株式投資に役立ったり、効果のある本ってどんなイメージがあるでしょう?

専門的な技術書であったり儲け方の書かれた本であったり、はたまた財務諸表やチャートの基本的な読み方といった入門書であったり。

一般的にはそんなイメージかと思いますが、ここではあえて小説をご紹介したいと思います。

それも株とは直感的にあまり結びつかない、山崎豊子さんの作品についてお話します。

なぜ山崎豊子さんの作品が株式投資に役立つのか。

その理由や根拠も含め、あくまでも私の主観を列挙したものではございますが、山崎豊子さんの作品について知ってもらえれば幸いです。

「不毛地帯」をオススメします!

山崎豊子著 不毛地帯
舞台は高度成長を迎えた戦後の日本。

主人公は戦時中、キレ者の陸軍参謀であった壱岐正(いき ただし)という人物。

主人公の壱岐は戦後シベリアに抑留されてしまいますが、なんとか日本へ生還を果たし、その後は総合商社の商社マンとして第二の人生を歩み始めます。

不毛地帯は一巻から五巻(ページ数はだいたいどの巻も500ページくらい)まである長編大作ですが、第一巻では大部分がシベリアでの抑留生活について描かれます。

舞台が本格的に総合商社でのビジネスに移るのは第二巻からであり、以降は戦闘機の買い付けや自動車産業との折衝、主人公のアメリカ赴任や中東での油田開発など、目まぐるしく話題が移り変わるのが特徴です。

しかしひとつひとつの話が細切れのようにバラけているのではなく、各々が密接に関連しあっていて、最初は小学生でくらいであった主人公の子どもが、物語の最後では結婚して子どもも生まれている(主人公にとっては孫)ので、時間的なスケールも大きな小説です。

見どころは世界的にも特異な存在と評された、日本の総合商社の詳細がリアルに描かれている点につきるでしょう。

山崎豊子さんは取材を徹底することで有名ですが、この「不毛地帯」にもそのプロとしての矜持がにじみ出ているように感じます。

舞台を次々と変える総合商社のビジネスを主人公の壱岐と追っていく中で、自然と視点が一段高くなり、「大局的なビジネス観」「国際感覚」が感じ取れるようになるはずです。

まるで自分が主人公に乗り移ったような感覚に陥るほど私は感情移入しましたが、それを促しているのは、主人公のプライベートや感情についても人間臭さが色濃く描かれていることによります。

ビジネスのリアルさだけでなく、山崎豊子さんの小説は人間の機微や感情についても生々しく描かれています。

主人公の家族構成は主人公・妻・娘(姉)・息子(弟)の四人家族ですが、その都度「夫としての壱岐」、「父親としての壱岐」、「ビジネスマンとしての壱岐」と次々に視点の切り替わるところが、読者に親近感を抱かせ感情移入を促すのだと思います。

総合商社が舞台のため、派閥間の社内政治や権謀術数もリアルに描写されており、サラリーマンであれば、思わず「あるある」と頷いてしまう場面がいくつも見つかるはずです。

また、主人公がシベリアに抑留された暗い過去と、どう折り合いをつけていくかという葛藤も細かく描かれており、仕事とプライベートを全て合わせた人生全般についても、深く考えさせられる内容になっています。

取材の徹底することで得られた高度な専門知識と、人間の内実を洞察する作者の鋭い感性が合わさることで文学的にはもちろん、ビジネス書としても高く評価される作品であると言えます。

「不毛地帯」を薦める理由

「不毛地帯」が直接株式投資に役立つことは、おそらくないと思われます。

しかし先ほど申し上げた通り山崎豊子さんの作品は、ビジネスと実際にそれを行う人間の内情が細かく描かれているので、株式投資に限らず感性を磨くにはうってつけの本であると感じます。

投資で成果を出しているトレーダーやファンドマネージャーが書いたブログなどを読んでみると、彼らは一様に財務諸表やチャートから「数字とは別の何か」を嗅ぎ取ったり洞察しているように思われます。

私はこの「言葉で表現することのできない感性や感覚」が、株式投資では極めて重要であると考えており、それらのセンスを磨くのに山崎豊子さんの小説は有効であると感じます。

山崎豊子さんの作品には、善人であれ悪人であれ心に葛藤を抱えている人物が多く登場します。

そのため悪人ではあっても、純粋な「悪」や「黒」とは言い切れない「グレー」な要素を宿しており、作品全体として世の中のグレーゾーンを描くのがとても上手いと感じます。

株式投資においても「群衆心理」といったつかみどころのない要素が、結果に対し大きな影響力を持つ以上、実践的なスキルや手法以外にも小説などを通じて感性を磨くことが重要であると思います。